新型コロナ、“無症状”でも無害とは限らない
自覚できない症状や長期的な健康被害がある可能性、今わかっていることは
2020年2〜3月に横浜港で隔離されていたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で新型コロナウイルスに感染した人の肺の画像を初めて見たとき、米スクリプス・トランスレーショナル研究所のエリック・トポル所長は心配になった。PCR検査で陽性となった104人の乗客のうち、76人は無症状だった。にもかかわらず、その54%のCT画像に、肺に水がたまっていることを示す「すりガラス陰影」と呼ばれる灰色の斑点が見られたのだ。
「これが事実だと確認されれば、症状がなくても無害とは限らないことを示唆している」。トポル氏は、ダニエル・オラン氏とともに著した総説論文でそう警告している。論文は9月1日付けで学術誌「Annals of Internal Medicine」に発表された。
米国では、パンデミックが始まって以来、新型コロナの感染者数が4000万人近くに達している。最近のある研究では、実に感染者全体の35%が無症状と推定されている。「だからこそ、無症状でも害があるかどうかどうかを知ることが重要なのです」とトポル氏は言う。
ダイヤモンド・プリンセス号の症例が最初に報告されてから、すでに1年半以上たつ。だがトポル氏によると、無症状だった感染者の肺の異常に関するその後の研究はない。科学者たちは重症患者の治療法やワクチンの開発に追われ、無症状感染のその後の研究にまで手が回らなかったのだ。その結果、無症状感染がもたらしうる影響や、そうした影響を受けている人の数は、まだほとんどわかっていない。
問題の規模が正確にわかっていないのは、無症状感染者の数を特定するのが信じられないほど困難だからだ。「感染しても無症状だったため検査を受けておらず、自分が感染していたことを知らない人が大勢いるはずです」と、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部の助教授で、急性期後の新型コロナ治療の専門家であるアン・パーカー氏は指摘する。
しかし、感染時に無症状であっても、その後に深刻な害を及ぼしうる証拠が報告され始めている。血栓、心臓の障害、不可解な炎症性疾患のほか、「ロングコービッド(long COVID)」と呼ばれる、呼吸困難や「ブレインフォグ(頭がぼんやりした状態)」などの症状が長期間続く後遺症などだ。
この記事では、新型コロナのいわゆる“無症状感染”の影響について、これまでにわかっていることと、まだ解明されていないことを見ていく。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/090300433/?ST=m_news