https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202207/0015491985.shtml
「帰国すれば終身刑」タンザニアから逃れた同性愛カップル 2度却下も難民申請を切望する理由
法律で同性愛を取り締まるタンザニアから逃れてきた兵庫県在住のゲイカップルが、日本で難民認定を求めている。2人は「帰国すれば終身刑の可能性がある」と訴えるが、既に2回の申請を却下された。国内では2018年に初めて同性愛への迫害を理由にした難民認定が出たものの、同様の事例は少ない。専門家は「日本だと想像しにくいが、アフリカ諸国では同性愛者に対する政府や市民の迫害があり得る」と指摘する。(井沢泰斗)
難民認定を求めているのは、「特定活動」の資格で日本に滞在する三木市の20代男性と稲美町の40代男性。2人は17年ごろ、タンザニアの都市ダルエスサラームで知り合い、交際を始めたという。
2人や支援者らによると、三木市の男性は19年、別の男性と性交渉をした容疑で現地警察に逮捕された。タンザニアでは男性同士が性交渉した場合、終身刑か30年の懲役刑が科される。
母親の助けで保釈された男性は仕事で取得していた短期商用ビザを使い、20年1月に日本へ逃れた。その後、同時期に来日した稲美町の男性とともに、名古屋出入国在留管理局(入管)と大阪入管神戸支局に難民認定を申請。しかし、タンザニア警察による捜査や政府の迫害を受ける恐れがあるとの訴えが「信ぴょう性が認められない」とされ、却下されたという。
2人は知人を通じ、在留外国人らの支援に当たる「神戸移民連絡会」(神戸市中央区)に相談。同会は「彼らは同性愛者であり、タンザニア政府は同性愛者を取り締まっている。客観的に帰国すれば危険なことは明白だ」とし、3回目の申請に向けて準備を進める。
専門家によると、アフリカ諸国では政府だけでなくLGBTなど性的少数者に対する市民の反発も強く、本人や家族が地域社会で迫害されるケースが実際にあるという。
タンザニア研究で知られる立命館大大学院の小川さやか教授は、同性愛者が迫害を受けるだけでなく、「十分な捜査や適切な裁判が行われないまま収監される場合もある」と話す。その上で「いわゆる『偽装難民』でないことを慎重に判断するのは重要だが、発展途上国では証拠書類などで逮捕歴を証明するのは難しい。帰国することで危険にさらされる場合は難民として保護すべきで、入管は各国の事情を考慮して適切に判断してほしい」と求めた。
■同性愛者の難民認定、極めて少ない日本「国際基準に達せず」
難民の認定手続きは、母国で人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受けるおそれがある外国人を出入国在留管理庁が審査し、決定する。同庁が2021年に認定した難民は74人で、認定制度が始まった1982年以降で最多。ただ、年間1万人以上を認定する欧米各国と比べれば極めて少ないのが現状だ。
LGBTなど性的少数者の難民申請を巡っては2018年に日本で初めて、同性愛行為を理由に出身国で逮捕され、保釈中に来日した外国人が難民認定された。出入国在留管理庁の公表資料によると、同性愛者であることが「迫害のおそれがある特定の社会的集団の構成員」だと認められたという。
ただ、認定NPO法人難民支援協会(東京)によると、同様の認定事例は極めて少ない。担当者は「日本の場合、母国政府から個別に迫害のターゲットとして把握されていないと難民認定されず、国連難民高等弁務官事務所の求める基準に達していない。カミングアウトするだけで『ムラ社会』から迫害を受けるLGBTなど性的少数者のような申請者にはハードルが高すぎる」と指摘する。