人に語れるような半生なら孤男やってないし、自分の半生を人に
語りたがるような人は、やっぱり孤男じゃないと思いま〜す
現在27歳の中卒の鍛冶屋です。
オレが小2の頃、父はリストラにあい失業した直後に母親は4歳下の妹を
連れて離婚し家を出て行った。オレは母には付いて行かずに父親を選んだ。
2年程近所の上下水道施工会社で日雇のバイトで生活をしていたがバイト先の
社長の紹介で県内でも有数のホームセンターも経営する建材商社に営業として
就職し収入も安定し住まいも祖母の妹の家に間借りし平穏な日々を過ごしていた。
父の肩書きは営業となっていたが内容は4トン車での納入と集金が主な内容で
毎日現金を扱っていたようだ。
父が担当する取引先は小規模企業と一般の顧客で取引は全て現金決済であった。
小ロットでホームセンターと同額の激安価格で現場収めが可能と言うことも
あって大変繁盛していた。
父が扱う金額も月に700万円を下回る事は無かったようです。
真面目な父がオレが中学1になる春休みにタヒんだ享年37歳だった。
警察は会社の売上金691万円を使い込んでの自殺と断定した。
当然会社からは弁済を求められて父の預金では足りないので祖母の妹夫婦が
肩代わりしてくれた。
母は通夜にも葬儀にも来る事はなかった。
オレはこれ以上祖母の妹夫婦に迷惑を掛けたくないので県外に住む母を訪ねた。
母は再婚しいて新築のような家に4歳位の子供と妹と再婚相手の両親と暮らして
た。玄関の呼び鈴を鳴らしたら妹が出て来た。
妹は母に連絡を取っていたが、妹と近くのバーミヤンで母を待つ間に父のことを
話した。妹は知らない様子で驚いていた。
母は離婚直後に再婚相手と暮らし始めたと言っていた。
ラーメンとチャーハンを注文し近況を話していると母が勤めを抜けてやって来た
母はオレの顔を見るなり「迷惑だから二度と来ないでねオレ夫は引き取れないから」
と言った。母は妹を先に返した後の母の告白「妹の本当の父親は再婚相手である事」
「妹が日が経つに連れて本当の父親に似て来るのでバレル前に離婚した事」
「タイミング良く父がリストラされた事を理由に離婚した事」
「オレが母に付いて行かず父を選んでホットした事」
母は一方的に言いたいことだけを言って俺に1万円を渡して「二度と来ないで」
と釘を刺して勤め先に戻っていった。
オレはしばらく立ち上がれなかった。
父親は母子家庭で育った一人っ子で祖母は父親が20歳の時に他界し
親類と呼べるのは祖父の妹夫婦しかない、中学を卒業するまで保護者に
なって貰えるように頼むことにした。
祖母の妹の旦那を今後は親方と呼びます。
中学卒業と同時に73歳だった親方に弟子入りし12年経った。
親方の職業は刀匠です。江戸の中期から続く鍛冶で刀匠では生活が成立たないので
主に和包丁を打っている。決して裕福ではないが仕事は充実している。
オレも刀匠としての許可を得ているが本身は年に二振り程の注文が入る程度だ。
好きな包丁は青鋼一の本打ちのやなぎ刃、次に出刃、マグロ包丁も四尺三寸を
打った事がある。
最近はダマサカスとV10金33層の牛刀、三徳、ぺティーナイフの注文が多い。
親方が5年ほど前に明治時代のイギリス製鋼の碇チェーンを90トン買い付けた。
現在は中々見つけられない代物です。
極軟鉄の地鉄造りからやっているので極端に生産性が低いです。
その代わり青二鋼の霞打ちは1033層で高い評価を頂いているが刃物産地でも無く
有名な鍛錬所でもないので仕事の割には販売価格は同等の物と比較して半額か6掛け
程で売られている。収入は低いが不満はない。
親方の女将さんは手打ちうどんの食堂を営んでいて親方より収入があったようだ。
その御かげで親方は利益を気にせず丁寧な仕事を続けて来られたと言って何時も
感謝していた。
書き忘れたがオレが二十歳になった時に親方と養子縁組をした。
親方は相続税の対策だと言って現金は残さないと言って高級鋼の在庫は山ほどある。
ベルトハンマーも地鉄の鍛造用に大型のエアー式や、刃物の成型用に油圧式カッター
や粗砥ぎ機も新しくした。
今年の正月は生まれて初めて一人で迎えた。
某国人の英語の講師の注文で正月一日から打初めで二尺九寸五分の長刀を打った。
その一部始終の動画を彼女の父親に送信したところ、立て続けに三振りの注文を
頂いた。
彼女の父親は某国海軍の将校で昇進祝いのプレゼントだそうだ。
彼女は日本刀の鍛錬や包丁の鍛錬の動画の動画をユーチューブとかにアップしたため
二月は外人(英語圏)が訪ねて来て大変だった。
自分史とか全く書くことがないのな
大して良いこともなかったが、人に言って興味引くような悪いこともなかった
そして何よりも、自分で何かをしたってことがなかった
人に語るべきことなんぞ何もないんだ
こうなりたい、ああなりたいとか、これをやってみたいなんてこともなく、もちろん夢もない
努力とか苦労とか全くしたことがないわ
生きてきたことすら虚ろで実感もないくらい
しかしこれは他人にとってはいいことなんだよな
オレが死んでも、誰も悲しまないし、困る人もいやしない
人間は他者を悲しませるようなことしちゃいけないもんな
一応そういうこと教えられた記憶はあるが、それだけは守れそうだ