誰もが韓国大統領選の独走を疑わなかった左派系最大野党「共に民主党」前代表・文在寅候補(64)の尻に火をつけたのが、
中道左派の「国民の党」元代表・安哲秀候補(55)。安氏の進撃がはじまったのは選挙戦突入直前の4月上旬。
当初は支持率10%に満たなかった同氏の支持率が急上昇し、一部世論調査で単独トップに躍り出た。
「大統領選で負けるほうが難しい」と言われた文氏を追い詰めた安氏は何者なのか?
1962年、釜山生まれの安氏はソウル大学医学部を卒業後、研究医として病院勤務を経たのち、セキュリティ・ソフトのベンチャー企業を立ち上げた。
ここで開発したソフトが大当たりし、当時、弱冠33歳だった青年実業家は「韓国のビル・ゲイツ」と呼ばれる時代の寵児になる。
その後、米国留学を経て帰国した安氏は、2011年のソウル市長補欠選、翌2012年の韓国大統領選に無所属で名乗りを上げ「安哲秀旋風」を巻き起こしたが、
いずれも最終的に出馬を断念。大統領選では朴槿恵氏の有力な対抗馬として注目を浴びたものの、野党候補・文在寅氏の支持に回った。
さらにその翌2013年、国会議員再補欠選に当選すると、「新政治連合」を結成。
文氏の「共に民主党」と合流し行動を共にしたが、最終的に袂を分かった。両者には少なからぬ因縁があるのだ。
◆癒やし系のお坊ちゃん
政治家としての経験が浅い安氏は、いわゆる「お坊ちゃん」タイプ。クリーンなイメージが強く国民受けも良い。
口調も穏やかで、韓国メディアには「癒し系」と評された。身長は160cm前後と小柄(文氏は公称172cm)で、本人はシークレットシューズの愛用を公言している。
そんな正直な人柄は若者をはじめとする浮動層の心を掴み、安氏の評価を一気に押し上げた。一方で、彼の政治家としての“押し出し”の弱さを懸念する声も少なくない。
実際、安氏が中心となり2016年に立ち上げた「国民の党」は結党からわずか2か月で韓国の第3党に躍進したが、いまだ安氏の政党内での影響力は確立されていない。
安氏は米軍のTHAAD配置について反対から容認の立場に転じたが、党内の反対勢力を説得できずにいる。
反対勢力には、安氏の票田・全羅道を活動基盤とするベテラン議員が多く、彼らの意見を無視できないジレンマがある。
対日関係についてはどうか。安氏は大学時代に短期間、日本への留学経験があり、自著でも「日本の数学者・広中平祐氏を尊敬している」と語っている。
だが、残念ながらそれ以上、日本との接点はない。
慰安婦問題の日韓合意についても「当事者(慰安婦)の合意を前提に修正が必要」と明言しており、慰安婦像を巡る日本の対応を批判した。
大統領選の結果に関係なく、歴代政権と同様、ポピュリズムと“韓国の常識”が最優先の対日外交を展開することは決まっているのである。
選挙戦が激しくもつれ込んだのは、反米・親北派の「文在寅大統領」誕生に危機感を抱く保守層と、浮動層の支持が従来にないタイプの若い安氏に集中したからだ。
4月13日付の韓国紙『中央日報』の取材で、「私はトランプ大統領と同じ事業家でウォートン校(米・ペンシルバニア大学のビジネススクール)の同窓」と強調した安氏。
米大統領選で大逆転劇を演じたトランプ氏と自身の姿を重ね合わせているのだろうか。
■文/趙赫洙
※SAPIO2017年6月号
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20170504/frn1705041100005-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20170504/frn1705041100005-n2.htm