15年前に乳がんになった女性が別のがんになって死亡したら、死因は乳がんか別のがんか。そんな「がんによる死亡」の統計で、日本が“世界標準”から取り残される恐れが出ている。
その国のがんの治療水準や罹患(りかん)の傾向などを比較するにはルールやシステムの国際標準化が不可避。専門家は「日本もルール作りに積極的に加わるべきだ」と話す。(社会部 道丸摩耶)
■新システムの導入めど立たず
現在、日本のがん統計は平成28年から始まった「全国がん登録」が中心だ。全国の医療機関でがんと診断された全患者が国のデータベースに登録され、がんの患者数や罹患率が算出される。
死亡については、死亡届の死因にがんと書かれていたり、がんの罹患歴があったりした場合に、一定のルールにのっとって、人口動態統計でがんによる死亡と集計される。
しかし、がんを患っていた患者が感染症にかかって死亡した場合や、いくつものがんにかかった場合、肝炎から肝がんとなり肝不全で死亡した場合など、
死亡に関連する多くの死因からひとつの「原死因」を決めるとなると、医師によって判断がバラバラになる可能性がある。
そこで一定のルールのもとで「がんによる死亡」を判断するシステムが必要となる。
国立がん研究センターがん登録センター(東京都中央区)の松田智大・全国がん登録室長によると、日本が採用しているのは、世界保健機関(WHO)の定義に従い、
米国のシステムを参考にした独自の「ACSEL」。ところが、国際的には「IRIS」という新しいシステムがドイツなどの欧州を中心に広く使われ始めており、
米国も自国のシステムからIRISに移ることを決めたという。
IRISを導入すると、がんによる死亡をWHOのルールにのっとって同じシステムで判断するため正確な国際比較ができるようになり、
各国のがん対策の課題や優れた点が明らかになる。ところが、
日本では新システムを導入するめどは立っておらず、システム開発の中心メンバーにも日本人は入っていない。
■アジアの視点取り入れ目指し発信
松田室長によると、日本は「胃がん」や「肝がん」の患者が欧米に比べて多く、死亡診断書への記載も必然的に多い。
ところが、IRISが欧米中心で作られると、こうした日本やアジア特有の記載がシステムにきちんと反映されるかをテストする機会が少ない。
将来、日本が新システムを導入した場合、語学の壁もあり、死亡診断書にある疾病名が正しく反映されないなど、WHOの定義に従った原死因が正しく判断されない恐れがある。そうなると、日本の治療水準や対策が正しく評価されないことになる。
松田室長は「一度作られたものを後から変えるのは難しい。最初から開発のコアメンバーに入る必要がある」と指摘。
平成29年12月、がん登録や統計のルール作りを行う国際がん登録協議会の理事長に就任し、アジアの視点を取り入れたルール作りを目指して発信を行っている。
配信2018.1.2 09:00
産経ニュース
http://www.sankei.com/premium/news/180102/prm1801020017-n1.html
その国のがんの治療水準や罹患(りかん)の傾向などを比較するにはルールやシステムの国際標準化が不可避。専門家は「日本もルール作りに積極的に加わるべきだ」と話す。(社会部 道丸摩耶)
■新システムの導入めど立たず
現在、日本のがん統計は平成28年から始まった「全国がん登録」が中心だ。全国の医療機関でがんと診断された全患者が国のデータベースに登録され、がんの患者数や罹患率が算出される。
死亡については、死亡届の死因にがんと書かれていたり、がんの罹患歴があったりした場合に、一定のルールにのっとって、人口動態統計でがんによる死亡と集計される。
しかし、がんを患っていた患者が感染症にかかって死亡した場合や、いくつものがんにかかった場合、肝炎から肝がんとなり肝不全で死亡した場合など、
死亡に関連する多くの死因からひとつの「原死因」を決めるとなると、医師によって判断がバラバラになる可能性がある。
そこで一定のルールのもとで「がんによる死亡」を判断するシステムが必要となる。
国立がん研究センターがん登録センター(東京都中央区)の松田智大・全国がん登録室長によると、日本が採用しているのは、世界保健機関(WHO)の定義に従い、
米国のシステムを参考にした独自の「ACSEL」。ところが、国際的には「IRIS」という新しいシステムがドイツなどの欧州を中心に広く使われ始めており、
米国も自国のシステムからIRISに移ることを決めたという。
IRISを導入すると、がんによる死亡をWHOのルールにのっとって同じシステムで判断するため正確な国際比較ができるようになり、
各国のがん対策の課題や優れた点が明らかになる。ところが、
日本では新システムを導入するめどは立っておらず、システム開発の中心メンバーにも日本人は入っていない。
■アジアの視点取り入れ目指し発信
松田室長によると、日本は「胃がん」や「肝がん」の患者が欧米に比べて多く、死亡診断書への記載も必然的に多い。
ところが、IRISが欧米中心で作られると、こうした日本やアジア特有の記載がシステムにきちんと反映されるかをテストする機会が少ない。
将来、日本が新システムを導入した場合、語学の壁もあり、死亡診断書にある疾病名が正しく反映されないなど、WHOの定義に従った原死因が正しく判断されない恐れがある。そうなると、日本の治療水準や対策が正しく評価されないことになる。
松田室長は「一度作られたものを後から変えるのは難しい。最初から開発のコアメンバーに入る必要がある」と指摘。
平成29年12月、がん登録や統計のルール作りを行う国際がん登録協議会の理事長に就任し、アジアの視点を取り入れたルール作りを目指して発信を行っている。
配信2018.1.2 09:00
産経ニュース
http://www.sankei.com/premium/news/180102/prm1801020017-n1.html