日産自動車、神戸製鋼所と企業の不祥事が相次いで明らかとなったことで、投資家は日本企業に対して不信感を募らせている。業界トップクラスの大企業で表面化する不正に企業統治のあり方が問われている。
「不正は個別企業で定期的に出てくる問題。まだ氷山の一角」。アバディーン投信投資顧問の窪田慶太インベストメント・マネジャーはこう指摘する。「定期的にこういった問題が起こってくる状態では、コンプライアンス(法令順守)体制が甘い会社が他にもあるだろうということになる」とみている。
日産自が9月29日に無資格の従業員が車両の完成検査をしていた問題を発表したのに続き、今月8日には神戸製鋼所がアルミや銅の製品の一部で強度などの性能データを改ざんしていたことが明らかになった。神戸製鋼所の改ざん問題では、トヨタ自動車やホンダ、スバルなどの自動車各社がデータ改ざんのあったアルミ製品を使用していたほか、三菱重工業やIHI、川崎重工業、日立製作所でも使用されており影響は産業界に広く波及している。
UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本株リサーチヘッドを務める居林通氏は、日本の製造業は「過去の成功体験を引きずってしまっている」と指摘。団塊の世代が退職したことで現場で経験豊富な人材が不足しており、コストを抑えながら製品の品質を一定の水準に保つということが難しくなっているとの見方を示した。「会社全体として生産性を上げ、品質も含めて生産性をモニターしていくシステムが必要」と話した。
今月5日に半導体子会社の買収契約がまとまった東芝では、経営トップが関与した不正会計が長年行われ、さらに経営再建に取り組む中で原子力事業を巡り巨額の減損損失を計上。8月には東証2部市場に降格した。三菱自動車では燃費試験での不正行為が発覚し、日産自が第三者割当増資を引き受け筆頭株主となった。また、部品メーカーのタカタはエアバッグの大量リコール問題で経営破綻した。
日本特有ではない
企業のガバナンス普及などを目指す会社役員育成機構のニコラス・ベネシュ氏は、日本の製造業では過去に東芝やオリンパスの事例から不祥事が会社の経営問題にまで発展する可能性があることは十分に理解されており、不正な行いを正さなければいけないと多くの人が感じていると指摘。「そういったことに気付けない組織で問題が起きている」と話した。
企業統治やコンプライアンス上の問題は世界的なもので、「隠ぺいを日本特有の問題とするのはフェアではない」と語る。「興味深いのは、ほとんどの日本企業の不正には金銭的な欲求が背景にあるわけではないこと」で、「特に安全性や品質のようなものが関わっている場合には、何かが間違っているということを認めることのできない体質」が根本にあると述べた。
企業のコンプライアンス問題に詳しい郷原信郎弁護士は、「不正は最近始められたことではなく、組織内で潜在化していたカビ型の問題」と話す。同氏は個人の利益のために個人の意思で行われる行為を「ムシ型行為」と分類。これに対して「カビ型行為」は、組織の利益のために組織の中で広がりをもって長期間行われているものを指す。
「カビ型行為が企業社会にまん延している」と指摘。原因となっている構造的な問題を改めない限りはカビ型行為は解決できないため、匿名性を確保できる自由記述型のアンケート調査を実施して潜んでいる問題を全て明るみに出す必要があると話した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-10-10/OXLJS76JTSEA01