LGBT:「本当の私」絵筆に込め「いじめ、逃げていい」 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170916/k00/00e/040/315000c
性同一性障害であることを公表し、性的少数者(LGBTなど)への理解を求める活動を続ける画家がいる。
男性の体に生まれて女性として生きる、こうぶんこうぞう(本名・公文晃蔵)さん(46)=大阪市。
いじめや自殺未遂を経験したが、絵との出会いに救われた。
当時と同じ境遇にいる子どもたちに「逃げてもいい。どんな自分も好きになって」とメッセージを送る。
大阪府阪南市出身。
幼いころから、好きになるのは男の子だった。
スカートや口紅をせがみ、遊びはままごと。
小学校入学時には、黒いランドセルを赤いペンで何度も塗った。
性同一性障害という言葉が知られていない時代。
女の子のような仕草を同級生にからかわれ、教師には「男らしくしろ」と殴られた。
集めた色とりどりのリボンやシールは、全て親に捨てられた。「男の着ぐるみに包まれた感覚」で生きていた。
自分を変えてくれたのは、中学の女性美術教諭。
学校でただ一人の味方だった。
「ロングヘアにしたい」と言うと、長い髪になった姿を描いてくれた。
「絵の中では本当の自分になれる」。
絵画教室にも通い、夢中になった。
キャンバスだけが逃げ場所だった。
高校時代は学ラン姿ながら、顔には化粧をしていた。
そんな姿が目を付けられ、激しいいじめの対象に。
弁当はトイレにこもって食べた。
「悪いのは私。居場所なんてどこにもない」。
絵もやめさせられた。
そして高2の時、うそをついて買った農薬を深夜に飲んだ。
1カ月以上も生死の境をさまよい、「怖いものがなくなった」と言う。
「絵で食べていく」と決め、高卒後に家を出た。
大阪市生野区の商店街で1枚500円の似顔絵を描き、アパートで朝まで絵筆を握った。
作品のモチーフは、ほとんどが子どもの顔。
投影するのは、絶望していた自分や、望んでも産めない「我が子」だ。
次第に評価が高まり、1996年には初の個展を開いた。
男性として生活していたが、カナダ人の恋人から「性同一性障害では」と指摘された。
2003年からは公表して活動し、これまで30回以上の個展を開いてきた。
最近は、関西の小中学校や教員の研修会で講演し、性の悩みを抱える子への理解を求めている。
近年、国内でもLGBTは知られるようになったが、命を絶とうとする当事者や、誰にも相談できない子どもたちが、今も身近にいる。
「自分を追い込まないで。世の中はきっと変わるから」と力を込める。
10月1日まで、創作活動20年を記念した個展を神戸ポートピアホテル(神戸市中央区)で開いている。
【茶谷亮】