平成30年度大学入試センター試験 地理歴史(地理B)第5問問4への見解
大阪大学大学院言語文化研究科スウェーデン語研究室は、平成30年1月13日に実施されました大学入試センター試験地理歴史(地理B)の第5問問4につきまして、
日本で唯一のスウェーデン語に基づく研究教育を行っている大学に属する者の立場から、以下のような見解を公開します。
(1)「どのような解答が求められていたのか?」
@この問題自体は新しい趣向を凝らした問題として作られたものと思います。
とりわけ「AとBはノルウェー語とフィンランド語のいずれかを示している」という箇所については、
判断の素材としてスウェーデン語の例があげられ、これをもとにスウェーデン語と似た言語であるノルウェー語がA、そうではないフィンランド語がBだと類推させる点は理解できます。
これは、スウェーデン語とノルウェー語がインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属し、
フィンランド語がそうではないという点で、語族という考え方を教える地理Bの内容を踏まえた出題だと思います。
Aタの「ムーミン」とチの「小さなバイキング ビッケ」の選択については、「たとえムーミンがフィンランドを舞台にしたアニメーションだと知らなくても、
バイキングはノルウェーに関わるものだから、消去法からタの「ムーミン」がフィンランドに関するものだ」と解答させるものだと思います。
地理Bで教えられる内容として、「北欧は8〜12世紀に活躍したノルマン人(ゲルマン民族)の活躍した地域」というものがありますから、
もし確実に「図5中のタとチはノルウェーとフィンランドを舞台にしたアニメーション…である」と言えるならば、以上のような消去法に従って解答は求められると思います。
(2)「この設問のどこに問題があるのか?」
@この設問が抱える問題は、設問の文章中に「図5中のタとチはノルウェーとフィンランドを舞台にしたアニメーション…である」と記されている点です。
スウェーデン語を母語とするスウェーデン語系フィンランド人の作家トーベ・ヤーンソンがスウェーデン語で書いた一連のムーミン関連の物語の舞台は、「ムーミン谷」とされています。
スウェーデン語研究室に属する教員が現時点で原作(ただし現時点では全9作すべてのスウェーデン語原典を確認できてはおりません)やトーベ・ヤーンソン関連の評論・資料などから確認できている限りで、
「ムーミン谷」は架空の場所であり、フィンランドが舞台だと明示されておりません。
ムーミン谷は、ムーミントロールの冬眠の期間に数日間夜の闇に沈んでいるという設定があるので、これが「極夜」現象の起きる場所だろうということで北極圏のいずこかとは推測できます。
またスウェーデン大使館のFacebookが「ムーミン谷のモデルになったのは、ヤーンソン一家が夏の日々を過ごしたスウェーデン群島にあるブリード島です」と記されているように、
トーベ・ヤーンソンはスウェーデン領のブリード島での印象にインスパイアされましたが、それはあくまでもモデルのひとつであり、物語中のムーミン谷そのものではありません。
以上、これらの点からムーミンがフィンランドを舞台としているものとは断定できません。
Aくわえて、もし消去法で図5中のタを答えるにしても、スウェーデン人作家のルーネル・ヨンソンがスウェーデン語で記した『小さなバイキング』の舞台もまた、
「ノルウェーとスウェーデンの海岸にはかつてバイキングと呼ばれる海賊たちが活躍していた」とあるだけで、ビッケと愉快な仲間たちが住んでいるフラーケ村がノルウェーだとは明示されていません。
また原作中には、ビッケの属するフラーケ村の一族はスウェーデンの部族だとの記述があります。
スウェーデンのバイキングたちがノルウェーに移住することは史実として確認できることですが、原作中にはビッケの一族がスウェーデンからノルウェーへ移住したとの記述はなく、
この点から見てもノルウェーが舞台だとは言えません。
さらに『小さなバイキング』の物語自体はスカンディナヴィアに限定されず、世界中を旅するものとなっています。従って、この作品がノルウェーを舞台としているとも断定できません。
まだまだ続くのでつづきはソース先で 平成30年1月15日
大阪大学外国語学部スウェーデン語専攻
http://www.sfs.osaka-u.ac.jp/user/swedish/