妻救い、力尽きる 襲う濁流「目の前で流された」 亡くなった井上さん・熊本
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020070701108&g=soc
球磨川の氾濫で市街地一帯が水没した熊本県人吉市。川沿いの同市下薩摩瀬町に住む益田圭祐さん(67)は、濁流にのまれながらも妻を助け、力尽きた近隣住民の最後の姿を克明に覚えている。
「目の前で流されていった。無力感に襲われた」。断続的に強い雨が降った7日、身を寄せる避難所の前で暗い表情を見せた。
4日、益田さん宅の近くに住む井上三郎さん(81)が自宅前で泥水にのまれ、亡くなった。
前夜から強い雨が続いていた。
4日朝、川の水位は急速に上昇。
益田さんが家の外に出ると、氾濫した茶色い水が膝の高さまで来ていた。何とか10メートル進むも、動けない。道の先では、井上さん夫妻が塀の茂みに必死にしがみつき、流れにあらがっているのが見えた。
向かいの住人が、助けようとビニールテープを投げた。井上さんはそれを妻の手に巻き付けた直後、力尽きて沈み、流されていった。
最後は妻の方に顔を向け、手を振るようにしていた。
「目の前で人が死ぬ無力感。おやじたちが戦争体験を語りたがらなかった心情を理解できた」と語る益田さん。
テープが引っ張り上げられ、井上さんの妻が助かったことが救いだった。