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https://mainichi.jp/articles/20201214/k00/00m/050/126000c
聖火リレー、著名人ランナー取りやめ難航か 政府コロナ対策案に反発も
人気ドラマの俳優やNHK紅白歌合戦の常連歌手、お茶の間に親しまれるお笑い芸人――。今年予定していた東京オリンピックの聖火リレー走者には世間の人気者たちがずらりと名を連ねていた。大会組織委はランナーの権利を維持するとしているが、新型コロナウイルスの感染防止策として、政府内では著名人ランナーを取りやめる案が浮上している。
「大勢の人が沿道に殺到するのはあまりにもリスクが大きすぎる」。ある政府関係者はそう話す。聖火ランナーには、各自治体やスポンサー企業が各地にゆかりのある著名人をランナーとして選んだ。アイドルグループ「TOKIO」はテレビ番組で関わりのある福島、歌舞伎俳優の片岡愛之助さんは出身地の大阪、被爆者と交流のある女優の石原さとみさんは長崎で盛り上げ役を託された。大会の延期に伴い聖火リレーも中止になったが、組織委はランナーの権利について、維持する方針を再三にわたり示していた。
「復興の火」として展示された東京オリンピックの聖火を見る人たちでにぎわうJR仙台駅。約5万2000人が観覧し、長蛇の列ができた=仙台市宮城野区で2020年3月21日午後2時44分、和田大典撮影
だが、新型コロナの収束は見通せない。組織委を中心に感染防止策を検討する中、政府からは著名人ランナーを取りやめる案が急浮上した。3月のギリシャ国内の聖火リレーでは、人気俳優が走り出すと沿道に多くの人が押し寄せ、出発から1日余りで中止に追い込まれた経緯もある。大会関係者によると、政府案は歌手や俳優ら芸能関係者を対象とし、五輪出場経験のある元選手らの走行は認めるという。
政府案に対し、人選した自治体や多額の協賛金を拠出するスポンサー企業からは反対や戸惑いの声が上がる。東北地方の自治体関係者は「東京と地方では感染状況は違う。拡大地域に絞るなど、全国一律で取りやめなくても」と話す。スポンサー関係者は「感染症対策の重要性は理解するが、テレビCMに起用しブランドイメージにつながる著名人を選んでいるケースもある」と指摘する。
今年予定していた聖火リレーの感染防止策は中止決定までの間、二転三転した。沿道での観覧自粛を呼びかけてのリレー挙行を図ったかと思えば、感染が拡大したスタート直前には聖火をともしたランタンを車両で各地に運ぶ案を検討した。組織委はこれらの教訓も踏まえ、沿道の観覧方法を含めた感染症対策のガイドラインを作成するとしている。ある幹部は「内定しているランナーに走ってもらわないとは考えていない。対策を徹底したい」と話す。聖火リレーの実施に向けたさまざまな調整は、今後も難航が予想される。