10年以上前から、エリナブ氏は、栄養、腸内細菌、肥満や糖尿病などの一般的な病気の発症リスクの関連性を明らかにし、微生物叢をベースとした精密医療を確立させたいと考えてきた。
2014年、エリナブ氏らは、サッカリン、スクラロース、アスパルテームが、それぞれマウスの血糖値を上昇させ、そのレベルは砂糖を与えられたマウスの血糖値よりも有意に高いことを発見した。
人工甘味料を与えられたマウスから採取した腸内細菌を、自身の腸内細菌をもたず、人工甘味料を一度も与えられたことのないマウスに投与したところ、その血糖値レベルは、まるで自身が人工甘味料を摂取しているかのように急上昇した。
そこでエリナブ氏は、同じことがヒトでも起こるかどうかを確かめてみることにした。腸内細菌の変化は、果たして血糖値に影響するのだろうか。
エリナブ氏のチームはまず、1375人の参加者の中から、過去にゼロカロリーの甘味料を摂取したことのない120人をランダムに分けて、一般的な非栄養性甘味料4種(サッカリン、スクラロース、アスパルテーム、ステビア)のうちいずれか1つを2週間摂取してもらった。科学者らは比較のため、これらの甘味料を与えられていないグループも設定し、それぞれの血糖値の反応を比較した。
まず、4種の甘味料のうちいずれかを摂取し始めて2週間以内に、科学者らは、参加者の腸内細菌集団に明確な変化を認めた。「腸内細菌の構成、機能、それらが血中に分泌する分子に、明らかな変化が確認されました」とエリナブ氏は言う。つまり、腸内細菌が非栄養性甘味料に迅速に反応するということだ。
そのうえで、食後の血糖をコントロールする機能にこれらの甘味料がどのような影響を及ぼすかを確かめるため、研究者らは、参加者にブドウ糖飲料を飲ませて血糖値の変化を調べた。通常、血糖値は15〜30分でピークに達し、2〜3時間以内に普段の値に戻る。血糖値がずっと高い状態にとどまる場合、体が過剰なブドウ糖を適切に処理・貯蔵できていない「ブドウ糖不耐症」と呼ばれる状態になっていることが示唆される。
今回の研究において、スクラロースとサッカリンは体をブドウ糖不耐症へと近づけた。もしこの状態が継続すれば、体重の増加や糖尿病を引き起こす可能性がある。アスパルテームとステビアは、試験で摂取したレベルでは耐糖能に影響を与えなかった。